No.0304
鵺的『バロック』
私の所属事務所では、月に数回、演技ワークショップを開催しています。その講師として時々いらして下さる笹野鈴々音さんは、ホラー女優として定評のある方で、先日レポートを書いた『犬鳴村』にも出演されていました。
その鈴々音さんが出演された、演劇ユニット鵺的の第13回公演『バロック』を今月初め、下北沢スズナリにて観劇してきました。
チラシや宣伝文句を見ても、絶対私が好きな舞台だ!と確信できました。
下北沢に着いたのが結構ギリギリだったので、劇場まで走って滑り込みセーフ。
早い段階で完売したとあって、客席は当然満席。
開場早々に、轟音が客席を襲います。
ゴシックな洋館のセットの中を、台詞を喋りながら階段をゆっくり下りてくる鈴々音さん。
到底台詞が聞き取れるような音響ではないのですが、舞台上に集音マイクが設置してあるのか、声が響いて聞こえます。
シーンが変わると、男女が話しているのですが、先程とは一転して聞かせたくないのかと思うような話し声で、音圧の差に戸惑います。
屋敷を解体する話が進んでいて、執事と解体業者、保全に努めてきたNPO団体の担当者とが会話しているのですが、どうやらこの屋敷には何かいるらしい・・・。
兄弟たちの屋敷での幼少時のエピソードが差し挟まれる。
取り壊しの決まった屋敷で最後の晩餐を、との母の意向で、久しぶりに集まった家族たち。
事なかれ主義の父と病気で先の長くない母、父の不倫相手である秘書、屋敷に取り憑いた幽霊である伯母、その伯母に焦がれるあまり狂ってしまった長兄、妹への近親愛に苦悩する次兄と進んでその愛に身を投じる長女、養子である三男と相思相愛ながらそれを秘する次女・・・。
それぞれの関係性と心の裡が描かれてゆく。
外は嵐となり、有り得ない程に続く轟音、突如揺れ出すシャンデリア・・・恐怖がいや増してゆく。
落雷により落ちる照明。懐中電灯とスマホの明かりだけが、登場人物たちを照らし出す。
位相空間の断絶が起こるも、何故か解体屋のみがその間を自由に行き来する。
そして、呪われた血の秘密が明るみに出る・・・。
役者陣皆素晴らしかったです。
福永マリカさんの演じ分けとか。鈴々音さん演じる母親の理不尽さとか。
それに、次女を演じた春名風花さん!
Voyantroupeの『Paranoia Papers ~偏執狂短編集Ⅳ~』で拝見した時も思いましたが、台詞回しが舞台女優らしくて非常に聞き取りやすい。
次兄はチャラ男と見せ掛けて実は誰よりも苦悩していたという、そのギャップに抉られました。
お父さんと解体屋さんは、とても良いキャラで重いストーリーに笑いのアクセントを差し挟んでくれました。
この物語が素敵なのは何といっても、私の大好きな『恐るべき子供たち』と同じく、真の主役が屋敷であるところ。
「天空の城ラピュタ」でラピュタを壊すのが人間のエゴに思えて物凄く納得いかなかった私は、『バロック』のラストが好き。
人間なんてほんのちっぽけな存在で、たからこそ足掻いたり苦しんだりする姿が、愛おしく感じられるのだと思うのです。
「死が二人を結び合わせてくれますように」と、二組のカップルの為に、願わずにはいられませんでした。
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