No.034
天使―境界の存在
芸術作品の題材としてお馴染みの、天使。妖精や妖怪、幻獣と同じく幻想的な存在である彼らですが、広く知られるような翼ある人間形の姿は、ギリシア神話のエロス(ローマ神話のアモール、クピド)のイメージからの影響のようです。
元々は聖書を聖典とする三大宗教に登場する神の使いである彼ら。
その位階は九階級とされ、上から熾天使(セラフィム)、智天使(ケルビム)、座天使(ストロウンズ、オファニム)、主天使(ドミニオンズ)、力天使(ヴァーチュズ)、能天使(パワーズ)、権天使(プリンシパリティーズ)、大天使(アークエンジェルズ)、天使(エンジェルズ)とされます。
聖書では、その姿はどのように描写されているのでしょう。
熾天使は「民数記」では空を飛ぶ燃える蛇として描かれ、「イザヤ書」では6対の翼を持ち、2つで頭、2つで足を隠し2つで羽ばたくとされています。
智天使は「エゼキエル書」でかなりの分量を裂いて紹介されており、その姿は人間、獅子、雄牛、鷲の4つの顔と4枚の翼を持ち、全身に目がついていて人間の手を持ち、車輪で移動する、というように書かれています。
この翼を持つ4つの顔はどういう訳か福音史家マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネを象徴するものとされています。例えば、ヴェネツィアの守護聖人は聖マルコなので、紋章には翼を持つライオンが描かれています。
象徴の話が出たついでに。西洋の神秘主義体系に万物を構成するのは火・風(空気)・水・土の四大元素であるという考え方があり、四大天使と言われるミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエルがそれぞれ火・風・水・土に対応しています。
先程の四獣もやはり四大に対応しており、火=獅子=マルコ、風=人間=マタイ、水=鷲=ヨハネ、土=雄牛=ルカです。
では四大天使は聖書にどのように書かれているのかというと、「ダニエル書」にはミカエルやガブリエルの名前が登場しますが、姿については「人のように見えた」という描写に留まります。
「トビト書」のラファエルは「旅人の姿」だったそうですが、「ヨハネの黙示録」のミカエルも「龍(サタン)と戦った」ことが分かるだけですし、「ルカによる福音書」のガブリエルも、ザカリアとマリアにエリザベツとマリアの懐妊を告げるだけで、どんな姿をしていたのかは分かりません。
分からないなら描いたもの勝ち。審美的な観点からも教化の点からも、目がびっしりついていたり羽がやたら沢山生えていて、車輪で移動したり燃えながら空を飛んでいたりする奇妙な生物よりは、立派な一対の翼を持ち威厳のある姿や優美な姿、可愛らしい翼を持つ幼児の姿で描かれている方が望ましかったに違いありません。
ところで現在描かれる天使のほとんどは真っ白な翼を持っていますが、少なくともルネサンス期くらいまではカラフルな翼も多かったように思います。
白が主流になったのは、やはり純粋さや無垢さをイメージしやすい為でしょうか。
ロサ・アンティカでも、天使のモチーフのものはよく扱います。
こちらのペーパークラフト額は、SYの文字を貫く剣と王冠を頂く、花綱に取巻かれたメダイヨンを捧げ持つ二人の天使、という興味深い意匠でありながら、来歴が全く不明なのですが、良く出来た細工です。

芸術作品に登場する天使たちについて知るのにちょうどいい、「天使のひきだし 美術館に住む天使たち」という本も取扱中。
可愛らしいイラストとユーモラスな語り口が入門書には最適です。

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