Rosa†Antica(ロサ・アンティカ) - アンティーク・レトロ雑貨店店主、女優、人形作家、由良瓏砂のブログ

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23:40
Thu
2024

No.0543

マテリアル・ゴシック レビュー

2月12日にCAL(Classic Anthology Library)叢書から発売された『マテリアル・ゴシック』。
「ノン・ヒューマン」のテーマの下、総勢18名の短編小説が掲載されています。

それぞれの作家の描く「人間でないもの」が多彩で、非常に読み応えがありました。
また、作品の並び順が、これ以上ないくらい気持ちよく嵌っています。
皆様是非、ご購入頂き、できればレビューをお寄せ頂ければ幸甚に思います。

以下、掲載順に紹介していきたいと思います。


・秋杏樹「透明であるな、有色であれよ」
CALの副編集長、秋杏樹による、人間から産まれた異形の存在を描いた作品。勢いのある文体は、強烈な読後感を残す。「有色」が神と人間との契約の印であることを思うと、この存在は人類の進化の果ての姿だとでも言うのだろうか。

・浜名藤子「孔雀奇譚」
登場する「人でない存在」は紛うことなき、孔雀である。それも只の孔雀ではない、もっと禍々しい存在だ。にも拘らずこの掌編の真の怖さは、更に先にある。耽美的な恐怖に浸りたい向きにはお勧め。
   
・小磯カカカ「柘榴喰い譚」
ギリシャ神話のペルセポネの冥府下りの物語を、日本を舞台に置き換えた。ハデスに攫われるペルセポネとは違い、主人公の貧しく行く場所のない娘は自ら山へ向かう。口減らしという残酷な歴史に思いを馳せずにはいられない。

・夢月鏡花「幽霊慕情」
美文調でしたためられる、心優しい娘の幽霊と龍神の交情を描いた作品。娘の心の機微に寄り添うように、細やかに描かれた四季折々の情景描写が美しく、目の前に浮かぶようである。

・名津乃綾「藪椿の家」
「幽霊慕情」とは対比的な、酷い扱いを受けた女の復讐譚。陰惨な森の中で出会う者たちの不気味さと言ったら。女の感じる痛みや寒さが、心細さや恐怖が、そして憎しみが、優れた描写力によりまざまざと感じられる。

・玲瓏瑠璃「半身」
生霊と遭遇するのだから怪談の一種と言えるのだろうが、ここにはロマンスはあるが恐怖はない。交感(コレスポンダンス)という言葉が思い浮かぶ。この二人は、アンドロギュヌスの片割れでもあるのかもしれない。
     
・理久海からほ「硝子の檻」
人間の家畜やペットに対する愛は、ややもすると独り善がりなのではないか、と疑ったことがある人ならば、この作品に込められたアイロニーを感じ取ることが出来るだろう。人間が万物の長であると誰が決めたのか。

・祇園百「独演」
魔女は本来悪魔と契約した普通の人間の筈だが、創作の中では超自然的な存在として知られている。が、本作ではそれどころではない、様々な不思議な属性を付与されている。想像力の軽やかな飛翔を堪能できる一品。

・尾崎彌生「再会」
ノン・ミューマンと思わせた、実はメタモルフォーゼ譚。ギリシア神話では神々が人間の姿を変えたが、彼らは自らの意思で姿を変え、苦界でしかない人間界を去る。その先は言うまでもなく、アルカディアであろう。
       
・由良瓏砂「幽世甘露」
都会の迷い家あるいは隠れ里をモチーフにした。桐の林に黒い門があり、庭には紅白の花が咲き乱れている。その家からは何か持ち出しても構わない。アムリタはインド神話に登場する神々の飲み物で、百世はビスクドールの付喪神である。
冒頭の螺旋階段部分は神宮前のバーLe Sang des Poetesがモデルだが、残念ながら先日閉店してしまった。
詩人の解釈が興味深い、との感想を頂いたが、あれはボードレールの「どこでもこの世の外なら」から想を得ている。
          
・鈴川愛夏「インコ、北極へ」
飼育下にあったワカケホンセイインコが檻から脱出し、広い世界を見、そしてひょんな事から北極まで旅することになる。このインコにしては波乱万丈な経験が彼を急激に進化させたのであろうか。思わぬ結末にクスッと笑いが漏れる。

・物部木絹子「鏡に映るは」
目くるめくような展開、そして明かされる真実。軽快さと深刻さのバランスが絶妙である。ラストは極めて令和的で、風刺に富んでいる。現代の転生譚はこうであろうという作品。

・優月朔風「再構築」
優れた構成力、ストーリーもよく出来ている。ショート・ショートのお手本のような作品だ。以前ならSF、と呼ばれたであろう。だが今やこの作品に描かれているのは、ほんの数年先には現実化しているだろう光景なのだ。

・水木なぎ「White Shirt」
文化的背景の異なる人間同士の、ディスコミュニケーション。吊り橋に例えられた二人の関係は、とても繊細なものだったろう。彼らを再び結び合せる楔のような存在。それがWhite Shirtである。洒落た道具立てだ。

・Ito.N.Noel「アルストロメリア」
少し毛色の変わった幽霊譚。後輩たちに夢を託す死者の想いの切なさ、バンドの相方でもある友人に対する思いやりと友情。「未来への憧憬」という花言葉と共に、瑞々しい心の交流が描かれる、爽やかな作品。

・速見沙弥「愛するあなた」
このお話の主人公は花。それも「この心は永遠に変わらない」という花言葉を持つ、スターチス。ここまでひたむきな想いを向けられたら、あなたならどう思うだろうか。でも、簡単に心が移り変わるのは、人間の弱さなのかも知れない。

・亞辺マリア「星々の子どもたち」
異星人と少年との、ボーイ・ミーツ・ガール。物語の構造としては、昔話の浦島太郎とよく似ている。が、太郎が竜宮城を訪れて数百年を過ごし地上に戻るのとは逆に、彼女は彼の命が尽きる寸前に迎えに来る、と予告して去るのである。

・鈴村智久「主は惜しみなく与える」
ラストを飾るのはCALの編集長、鈴村智久の作品である。カトリックの聖人になるには、奇跡を起こすことが必須である。ヘッセの「デミアン」に描かれるような信仰の揺らぎは、キリスト者の多数が経験しているのではなかろうか。しかしキリストは復活後、弟子たちに向かい「見ないで信じる者は幸いである」と告げたのだ。

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